今年85歳になる彼女は、変形性膝関節症で、両方の膝が大きく腫れあがり、
医者からは、膝の手術を勧められています。
この歳での手術はいやと言う彼女がなんとか日常生活を送れるように、
毎週、鍼灸治療でお手伝いをしています。
感心するのは、ヘルパーさんや知人の助けを借りながらも、
自宅での独り暮らしをちゃんとこなして、
いつ人が来ても、「綺麗に片付いてるね。」と皆が驚くほどの整理上手。
そんな彼女が、最近便秘で悩んでいるとのこと。
実は、パーキンソン病も持っています。
パーキンソン病は、パーキンソン症候群とも言われるように、
個人によって、多種多様な症状が現れますが、
便秘は、典型的な症状のひとつです。
「お医者さんでお薬をもらってるけど、飲んだらもう、ピーピーで・・・」
お薬を飲んで、程良い感じに便通を促すのは、案外難しいもので、
どうしても動作が手間どる高齢者にとっては、
ともすれば、失態を招きかねないところが辛いですね。
失敗を恐れて少し薬を減らすと、もう出なくなってしまう・・・
微妙な「匙加減」が必要で、困っている方は非常に多いものです。
それからというもの、いつもの膝の治療に加えて、
温灸器によるお灸と刺さないタイプの鍼で、
腸の蠕動運動を活発にする治療を行いました。
「お薬の回数減らしても、先生のとこへ来たら必ずその日にお通じがあるわ。
ピーピーにはならんから、助かるわぁ。」
「腸動かすのには足の運動も大事だから、膝のためにやってる腿上げ体操も、
ちゃんと忘れずに続けてよ。」
「頑張ってやってんのよ。できるだけ歩くようにしてるし。
治療しだしてからは、おかげさまで寝返りも前よりだいぶやりやすうなって、
体が少し動きやすうなってるからね。」
来院当初は、ベッドの上での寝返りがひと苦労でしたが、
今は、随分とスムーズです。
パーキンソン病を患った人は、無表情になりがちなのですが、
彼女は時折、85歳とは思えないほどの愛らしい表情を見せます。
それは、小説にでも書いたらいいほどの波乱に満ちたこれまでの人生を、
ひとつひとつひたむきに乗り越えて来た、
そういう人にしか与えられない魅力なのかもしれません。
自分の意思とは無関係にさせられた二度の結婚、
子供さんの部活中の事故と後遺症、バイクを何台も乗りつぶして
働いたという仕事、夫の介護、お孫さんの介護・・・
これでもか、これでもかの数々の試練のあげくに、
おそらく彼女の人生で最後の、パーキンソン病と変形性膝関節症という
二重の試練。
キリスト教の教えに、「神は決して汝の力に余る試練は与えない。」
というものがありますが、そうであるとすれば、
85歳の彼女に、まだこれを乗り越える力があるというのでしょうか?
彼女に試練を与え続ける「神」の意図するところが私には解りませんが、
わずかでも、彼女の手助けができれば・・・
杖をつきながら、お迎えのタクシーに向かう彼女が、
「じゃあ、またね、先生。」と言って見せる微笑が、少女のように愛らしいなあと、
いつも思うのです。
(’14.11)
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