第17話    行く年来る年 本文へジャンプ
令和元年も、残り少なくなってきました。
今年は皆さんにとって、どんな年だったでしょうか?

天皇陛下の御代替わりや、ラグビーに沸いた熱い年だったし、
リチウムイオン電池開発でノーベル賞を受賞した吉野さんを、
誇りに思えた素晴らしい年でしたね。
一方で、第16話にも書いたように、自然災害を招く環境政策に、
世界中が大きな課題を突きつけられた年でもあり、
国内では相次ぐ凶悪事件に不安を抱く年でもありました。
ともあれ、来年は平穏な年になってほしいものです。

ところで、最近、お寺の除夜の鐘がうるさいという苦情が多く、
自粛して鳴らすのをやめたり、「徐夕の鐘」に替えたりしているお寺が、
全国に結構あるという話題を知りました。
私の自宅から歩いて10分程の所にも、
曹源寺という岡山藩主だった池田家の菩提寺があって、
毎年、除夜の鐘が厳かに聞こえてきます。
年末年始のしみじみとした趣に浸るこのひとときが、
私は好きなのですが、それが苦痛という人もおられるのですね。
確かに至近距離だと地響きのように体に感じるのでしょうし、
参加する大勢の方たちが次々に鐘を鳴らすので、
時にはバカの様な轟音を立てることもあるのかもしれません。
年に1回のことなのに、とか、長い歴史のある伝統的な行事なのに、
などという批判もあるし、苦痛に感じる人を無視していいのか?との
意見もあるし、非常に難しい問題ですね・・・

先日、当クリニックに来られた若い患者さんから、
物心ついた時から、家でおせち料理を食べたことがないという話を、
聞きました。
子どもの頃お正月におばあちゃんちに行った時や、
成長してから他所のお宅では食べたことがあるけど、
お母さんが好きではないのか、作る事も買うこともなく育ったと。
なので、元旦も普通のご飯が食卓に並ぶのだとか。
まあ、そういうご家庭もあるのだろうなと思いながら、
彼女がやはり一家揃って食べるおせち料理に、
ちょっぴり憧れを抱いているのを感じました。

日本も国際化が進み、日本の伝統的な文化以外に、
世界中の多種多様な文化に触れる機会が圧倒的に増え、
自分の好みに応じて、日本的なものにこだわらず、
さまざまな文化を取り入れることができるいい時代になりました。
食べ物ひとつとっても、多国籍料理がいつでも食べられますし、
服装も自由で、その分、着物を着る習慣がめっきり減っています。
倉敷の美観地区でも、着物を着て歩いているのは外国人の方が多いし、
盆栽や陶芸、西陣織などの伝統芸能の世界に弟子入りする日本人が減り、
寧ろ外国人が増えているというのもよく耳にします。

多様性の時代を充分楽しみながら、一方では、やはり日本古来の伝統も、
上手に折り合いをつけながら大切に守っていきたいものです。

私は、古い!と言われても、おせちの用意をしながら紅白を見て、
曹源寺の除夜の鐘を聞きながら「行く年来る年」に思いを馳せたいと
思っています。
でも、着物は、本当は着たいのですが着ないので残念なのですが・・・
皆さまも、良いお年をお迎えください。


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