第37話   山笑う 山滴る
                  〜  慢性副鼻腔炎 〜
本文へジャンプ
最近、花粉症に加え、原因不明の鼻炎、気管支炎を訴える患者さんが、
増えているように思います。
多くの場合、風邪がある程度治まった後、鼻水やくしゃみ、咳がしつこく残り、
花粉が飛散する時期がとっくに終わっても、ずっと症状が長引いて、
病院でもらったアレルギー薬を飲み続け、止めるとまた発症するという、
困った状況です。
これには、黄砂やPM2・5などの影響も少なからずあるのではと思われます。
空が真っ青に澄み渡り、遠くの山の木々がもこもこと瑞々しく茂って、
陽光に輝いて見える・・・
春の季語「山笑う」や夏の季語「山滴る」という表現がぴったりの、
春から初夏にかけての最も美しい季節の風景を見られる日が、
最近は、以前よりずっと減っている気がします。
天気が良くても、空はぼんやりとして、すりガラスを通して見る様な太陽、
白く霞んでしまって実際より遠く感じる山々。
これほど風景を変えるだけの「物」が空中を浮遊しているとすれば、
それを吸い込む呼吸器系に影響が無いはずはありません。

こういったアレルギー性鼻炎や花粉症があると、
慢性副鼻腔炎を併発しやすくなります。
最初、彼女が来院してきた時、「いつも頭が痛くて、頭痛薬で抑えてもすぐ、
痛くなってきます。あまりにしつこいので脳に異常があるのかと,
調べてもらったけど何もありませんでした。肩凝りがひどいから、
頭が痛くなるんでしょうか。」と、本当に辛そうでした。
「頭のどのあたりが痛みますか?」
「頭の前側のあたりです。」
私を見る彼女の眼はなんだか眩しそうで、
話し終えても、わずかに口を空けていて口呼吸をしている様子です。
「光やライトが眩しいですか?それと、鼻が詰まり気味ですか?」
「あぁ、すごい眩しいんです。用が無い時は眼をつぶっていたいくらいです。
鼻は、最近、いつも詰まってます。」

「慢性副鼻腔炎になってる可能性が大きいから、耳鼻科も受診してね。
取りあえず楽になるように治療しときますからね。」
彼女は、肩凝りから頭痛が起きていると思いこんでいたようで、
「鼻からですか〜?でも確かに鼻はこのところずっと詰まってます。
以前から花粉症があって耳鼻科に行ってた時もあったんですけど、
妊娠、出産以来、全然・・・
子供の洗濯ものが多くて、取り込んだりした時、くしゃみが連発して、
そういえば、前より鼻詰まりがひどいみたい。
以前は、杉花粉の時期が終わるとピタッと治まってたのに。」
彼女は、子育て中のママさんで、今日も、3歳と2歳の子供さんを、
おばあちゃんに預けて来院してきました。

副鼻腔とは、鼻腔(鼻の穴)を取り巻く空洞のことで、
4個の空洞が左右2対あって、鼻腔とつながっています。
おでこの奥や、眼と眼の間、その奥やその下に分布している為、
その部に炎症が起こると、頭痛がしたり、光が異様に眩しく感じられたり
しがちなのです。
勿論、鼻腔内も、炎症で粘膜が腫れあがって、
空気の通り道を塞いでしまうので、鼻詰まりがひどくなります。

炎症の起きている部位への血行を促して、自ら炎症を退かすのは、
鍼灸治療の得意とするところです。
まずは、彼女の言うとおり、頸肩の凝りを改善して、
美顔用の超極細鍼と温灸器によるお灸で、炎症を退かす治療をしました。
治療の最中から、「あッ、鼻が空いてきた!すご〜い!即効〜!」
鼻の周辺の治療は、鼻詰まりに即効性があり、
患者さんを驚かすマジック的治療のひとつです。
帰る時には、まぶしそうな目つきもなくなり、
「鼻も通って、頭がすっきりしました。」と、顔つきもすっきり。
「忙しいから大変だろうけど、鼻うがいもしてね。」

子育てに忙しい彼女は、翌々週に来院してきました。
「こないだの治療後、頭痛は全然大丈夫です。
でも、鼻は2,3日調子が良かったんだけど、
子供の洗濯ものを取り込む度にくしゃみが連発して、
そのうちまた鼻が詰まりだしたんで、耳鼻科に行ったら、
先生の言われた通り、慢性副鼻腔炎だってお薬をもらいました。
鼻うがいもしてます。したら、やっぱり鼻が気持ちいいし。
でも、洗濯ものを取り込む度に元に戻るというか・・・
おばあちゃんが、黄砂やPM2・5が飛んでて子供にも毒だから、
外に干すなって言うんだけど、うち狭いんで中にばっかり干せないし。」 

そうなんですよね〜外部から侵入してくる「異物」に反応している以上、
耳鼻科のお薬も、鍼灸治療も、なかなか根本治療とはいきません。
相手が花粉であれば、同じ自然界の一部である以上、
体質改善することで対処することもできますが、
相手が化学物資ということになると、簡単にはいきません。
できるだけ体内に入れないように努力するしかないのかもしれませんね。

大陸の砂漠化が進み、いにしえびとが「春霞」と愛でた風情とは、
規模が違う黄砂の量・・・昔は、ミネラルを多く含んだ黄砂が、
日本の田畑を肥やし、作物の栄養になっていたと言いますが、
今では、有害な化学物質を含んで、大量に押し寄せてきます。

「山笑う」「山滴る」・・・
日本の美しい風景を取り戻す日は、来るのでしょうか・・・
                         (’16.5)

 治療室の小窓トップへ