第26話 眼 施 本文へジャンプ
少し前の話題のドラマに、「やられたらやり返す倍返し」に反して、
「施されたら施し返す」という言葉があったのを覚えておられるでしょうか?
「お布施」に見られるように「施し」というのは仏教でよく用いられる言葉です。
仏教の教えの中に、一般の凡人である我々にもできる「七施」という、
七つの「施し」があると、あるお坊さんから聞いたことがあります。

@ 眼施   優しい眼差しで人と接する
A 和顔施  にこやかな笑顔で人と接する
B 愛語施  思いやりのこもった暖かい言葉で人と接する
C 心施   心から相手を思いやる
D 身施   体を動かしてご奉仕する
E 床座施  座席や居場所を譲る
F 房舎施  気持ちをこめておもてなしする

この、「七施」はいつでも誰にでもできる施しで、皆がこういう気持ちで
人と接することができれば理想ですが、なかなか簡単ではありませんよね。  

コロナ禍にあえぎながら、なんとなくギスギスしがちな今日この頃ですし、
マスクをすることが当たり前になって、人の表情を眼だけで読み取らなくては
いけないので、一層、人とのコミュニケーションが取りづらいですね。
ただ、、欧米人は、口元を観て相手の表情を感じ取る為、
マスクで口を覆ってしまうことに抵抗が強いらしいのですが、それに比べ、
東洋人は眼を観て相手を感じることに長けているらしく、
それ故にマスクにあまり抵抗が無いわけで、そうなると「眼施」が、
とても重要になってきます。
「眼は口ほどにものを言う」ということわざが日本にはありますが、
マスクから唯一出ている眼は、それが全てになってきます。
コロナが流行る随分前のことですが、どなたかのエッセーで、
マスクをかけてたい焼きを売っている若い女性の眼がとても優しそうで、
毎日通っていた男性が、ある日、マスクをはずしているのを見て、
自分のイメージと違っていて驚いたと書かれていたのを思い出します。

当クリニックも3月ころからずっと、私自身は勿論、患者さんにも、
治療中のマスクの着用をお願いしてきました。
東洋医学では顔の視診も大切で、身体を診る前にまず、
顔色や肌の状態だけでなく、お話している時のわずかな表情や
ゆがみなどを、ざっと把握するのですが、眼から判断するしかありません。
まだ、コロナ前のお顔を知っている患者さんはいいのですが、
初診の方の場合は、先ほどのたい焼き売りの女性のように、
想像したイメージと違う可能性もあります。
初診の患者さん側も、私の眼しか見えないので、
「こいつはどんな人物なのだろう」と想像しておられるだろうと思います(笑)

全国的に第3波が訪れている様相を呈して、これから年末に突入します。
皆が不安やイライラにさいなまれているこの時だからこそ、「眼施」を始め、
「七施」を少しでも、できるだけでも、心がけていけたらいいなあと思って、
ご紹介してみました。

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