第3話  エレベーターの中にもご縁あり
             〜血圧の乱高下〜
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彼女は、身体の不調をかかえ、鍼灸治療を受けたいと思っていましたが、岡山に引っ越してきたばかりで、どこへ行ったらよいかと思案していました。

ある日、スーパーのエレベーターの中で、「あら、お久しぶり!」と、
知り合いとばったり出会って話に花が咲いている女性の二人組と
一緒になりました。
この二人は、彼女と同年配くらいで、一人の、「今日は岡山まで鍼に行ってきてね。」
と言った言葉が、彼女の耳に飛び込んできました。
エレベーターを降りた二人を追うように降りて、
「今言われていた鍼の先生を教えて下さい。」と、思わず声をかけていたとのこと。
「何かすごくご縁を感じたものですから。相手の方はびっくりされていましたけど。」
初診の日、彼女は来院した動機を微笑みながら、そう話しました。

結婚を機に長年東京で暮らしていましたが、
子供のいない彼女は夫を亡くした後、故郷の岡山の、
昔両親と住んでいた家に、帰ってきました。
岡山は、亡き夫の故郷でもあったので、お墓もこちらに造り、
終の棲家とするべく、思い切って東京を引き払ってきたのです。
その家は、父を見送った後、ずっと母が独りで住んでいましたが、
その母も少し前に亡くなって、空家になっていました。

東京でずっとマンション暮らしだったので、
庭のある岡山の実家は快適でした。
しかし、近所の人達も、代が変わったり、施設に入ったりで、
もともと若い時からあまり友達もいないタイプだった彼女は、
人と接することもなく、毎日孤独でした。
そのうち次第に夜眠れなくなり、血圧が、ある日は188/101だったのが、翌日は101/80というように乱高下するようになりました。
病院に行くと、血圧を下げる薬も上げる薬も出せないからと、
安定剤が出ましたが、安定剤を飲むと寝つけるけど、翌日朝が眠い。
血圧もなかなか安定しません。
それで、エレベーターで出会った見知らぬ人の後を追うことに
なったのです。

血圧が高いなり、低いなりに一定に保たれているのは、自律神経の働きによります。
環境の変化と孤独というストレスにより、自律神経が乱れて、
このようなジェットコースター状態の血圧になってしまったのです。
自律神経のバランスの乱れを治すのは、鍼灸治療の得意技である
ことを、彼女は知っていました。
だからこそ、彼女の住んでいるS市から、電車とバスを乗り継いで、
毎週頑張って来院されました。

間もなく寝付きはよくなりだしたが、夜中に目が覚めてそこからは朝まで寝付けない。
それが、3か月経った頃、夜中に目が覚めてもいつの間にか眠っているようになり、
半年後には、血圧もやや高めながら、150/90前後でほぼ安定し、
乱高下は止まりました。
今では、すっかり元気になり、大阪までコンサートに出かけたり、
四国八十八か所のお遍路参りを始めたり。
最近は、疲れが溜まったら来院するというペースで、健康維持を
されています。

男女に限らず、何かのご縁で人と人は出会うもの。
私はいつも、患者さんお一人お一人も、何かのご縁で、
たくさんある治療院の中から、当クリニックに来院されているのだと
思っています。

目下、良縁を探している若い方たち、エレベーターの中にもご縁があるかもしれません。
どうぞ良いご縁がありますように・・・
                              
  (’13.7)

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