第6話  神様からのごほうび
             〜変形性膝関節症〜
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変形性膝関節症の患者さんは、肥満気味でO脚の人が多いですが、
彼女の場合も例外ではありません。

事情があって、幼い娘を残して婚家を去らざるを得なかった彼女は、
長年、勤めをしながら独りで暮らしてきました。
楽しみと言えば、食べることくらいしか無いので、
若い時はほっそりしていたそうですが、次第に体重が増えていきました。
勤めを退職した後、60歳を超えてからも、病院での清掃員として黙々と
働いてきたという彼女は、典型的な昔の日本女性です。
この間、元姑さんが亡くなった、娘さんが結婚した、娘さんが子供さんを生んだ、 元ご主人が亡くなった、との情報が入ってくることがあっても、
彼女は、愛しい我が娘に会うこともなく、孫を抱くこともなく、ひたすら黙々と、
暮らしていました。

当クリニックを訪れた時、彼女の膝は、悲鳴を上げているようでした。
両足全体が文字通りO型に湾曲し、膝周囲の組織が厚くなって大きく腫れあがり、
見るからに痛そうです。
「整形外科で、毎週のように水を抜いてもらって、ヒアルロン酸の注射も
時々してもらって、その直後は少し楽なんですが、また痛くなって・・・」
膝に溜まる水は、炎症を鎮めようとして滲み出てくるのですから、
当然、炎症が鎮まれば溜まらなくなります。
鍼治療で、炎症物質を散らし、お灸の温熱効果で膝関節の周りの血行を改善して
いくことで、毎週抜き続けていた水が、次第に溜まらなくなってきました。
痛みも緩和してきたので、お風呂あがりの温かく動きやすい時に、無理のない程度に大腿部の筋トレもできるようになってきました。

そんなある日、突然、娘さんから手紙が来ました。
「私を生んでくれたお母さんに会いたい。来年成人式を迎える自分の娘にも
是非会ってほしい。」と書いてあったそうです。
娘さんを育てた母親が昨年亡くなり、遺品を整理していたら、
岡山に居ると聞いていた実の母親の住所と名前らしきものが出てきたと。
親戚に確認して、間違いないと解り、手紙をよこしてきたというのです。

彼女が、幼い頃に生き別れた娘さんと会うのに、彼女自身が遠慮する理由は、
もう今は何もありません。
まもなく、娘さんが、彼女に会いに京都からやってきました。
どれほど、涙、涙の劇的な再会だったかは、想像に難くありませんね。
母親にとって、自分がお腹を痛めて生んだ子供と別れることほど、
辛いことはないはずです。その辛さをじっと堪えて黙々と生きてきた彼女へ、
神様からごほうびが与えられた瞬間でした。

「痛み」は、常に、精神的なものと直結しています。
同じ痛みを抱えていても、精神的に落ち込めば、痛みは倍増しますが、
ルンルン気分の時は、不思議なくらい緩やかになるものです。
彼女は表情も明るくなり、膝の痛みも忘れている時があるようになったと
言い始めました。
「先生の所へ初めて来た頃だったら、とてもよう行かなんだと思うけど、
思い切って京都に行ってみようかと思うんです。娘が今年の年末からおいでと
言ってくれてるんで。お正月を一緒に過ごして、孫の成人式が済むまで向こうに
居ようかと。」

その後の彼女の筋トレがパワーアップしていることは、言うまでもありません。

                                      (’13.10)
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