第43話   来年の事を言うと鬼が笑う
                   ~   痔   ~
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「私、痔があるんです。」とあっさり言える人はなかなか居ないと思います。
「○○肛門科」と露骨な看板を掲げた病院に入って行くのは人目が気になるし、
仮に、勇気を振り絞って病院の門をたたいたとしても、
先生の眼の前にお尻をさらすなんてとんでもないし、
もし手術なんてことにでもなったらどうしよう・・・と、
人知れず悩んでいる方は少なくありません。

彼女もそうでした。
岡山が誇る桃農家の肝っ玉かあさんで、
どんな事でも豪快に笑って言えそうな女性でさえ、です。
最初は、肩凝りや腰痛での来院でした。
桃の栽培は大変な作業です。
袋かけの時は、ずっと上を向いたまま両手を上げての作業で、
頸から肩甲骨にかけて、「死にそう・・・」
「腰も固まってしもうてロボットみたいじゃ・・・」
そして治療後には、「あぁ~生き返った!またこれで頑張れるわ~」と言って

帰っていきます。

そんなある日、「先生、恥ずかしいんじゃけどな・・・言いにくいんじゃけど、
私、痔があるんです。これ、なんとかならんかなぁ~? うわ、恥ずかし!」
「なんも、恥ずかしいことじゃないがぁ~
患者さんに結構多いから、うちではついでに治療してあげてるよ。」
「えぇ~ッそうなん?じゃったら、是非お願いします。」


彼女は男の子を3人出産、夫と桃作りをしながら立派に育てあげましたが、
誰も後を継がなかったので、現在は規模を縮小して夫と二人三脚の暮らし。
「一人目の出産が結構難産で、その時に痔になったんです。
その後、治っとったのに、次の子の出産でいきんだらまたなっての繰り返し。」
女性には非常に多いパターンです。
妊娠するとホルモンの関係で便秘しやすくなる上、
つわりがきついとあまり食べられず、便の量が増えない為、便秘しやすい。
妊娠後期は腹圧がかかり余計に便秘になり、を繰り返すうちに、
排便時の肛門周辺は負荷を受け続け、挙句の果てに、
出産時のいきみで、ついに痔になってしまうのです。

痔には、大きく分けてイボ痔、切れ痔、痔ろうの3種類があり、
妊娠・出産を期になるのは、多くの場合、イボ痔のうちの外痔核で、
排便時や出産時の負荷によって肛門の外側の静脈叢がうっ血し、
イボ状の腫れができてしまうのです。
イボ痔のうちの内痔核は、イボ状の腫れが肛門の内部にできるもの、
切れ痔は、やはり排便時の負荷が原因で、内部で裂傷が起きるもの。
痔ろうは、肛門周辺の細菌感染による炎症で、膿瘍ができ、
「廔(ろう)管」という管が形成され膿が出るようになるものです。
いずれにしても一昔前は手術が主流でしたが、
現在は、重症になると命にも関わる痔ろうを除いて、
手術は最小限にし、お薬と生活指導中心の、保存療法が主流のようです。
最近は、癌治療も、歯科領域でも、東洋医学的観点に近付いており、
患者さんにとって、大変、喜ばしいことです。

彼女は、出産後、産婦人科の先生に相談して薬をもらい、
なんとか凌いだようですが、肛門科は一度も受診していないとのこと。
「でも、この30年、ほとんど出血は無いしひどくはないんよ。
ただ、冬になると、お尻が痛くて・・・市販の薬を塗るんじゃけど、
すっきりせんのです。今年は特に痛みが強い感じ。」
上記の3種類の痔いずれの改善の為にも共通して言えることは、
便通を正常にすることと、冷やさないことです。

その日から、肩凝りと腰痛の治療に、便秘改善と痔静脈叢うっ血改善の、
治療を加えました。
次回の来院時、「こないだ、治療してもらって帰ったらずっとお尻がポッポと、
ぬくうて気持ち良かったです~そしたらお尻の痛みが取れて、助かった~」
勿論、便秘にならない為の食生活、夏の冷房の冷やし過ぎに注意し、
暑い季節でもお風呂に浸かること、長時間の立ちんぼや座り過ぎを、
できるだけ避けて適度に運動すること、お酒や辛い物は控えること、
寒い季節の農作業には低温やけどに気を付けてカイロをお尻に貼ること、
などの注意点は、要チェックです。
意外と盲点は、夏の冷やし過ぎにあり、冬に冷えを訴える人の多くは、
夏に冷やし過ぎています。
冬にいくら厚着をして温めても、夏、身体の奥深くに入り込んだ冷えは、
なかなか抜けません。

「いやぁ~冬に冷やさんように気を付けるんは、当たり前のことじゃけど、
先生に言われるまで、夏の冷やし過ぎに気が付かんかったわ~
今年は無茶苦茶暑かったでしょう?主人も私も暑がりで、
クーラーを一晩中かけて毎晩寝よーったし、暑いから、シャワーで
済ませよーった。それがいけなんだんじゃね~。」
「来年の夏は冷やし過ぎんように気を付けてよ~」

来年のことを言うと鬼が笑うと言いますが、
「来年」は、もうすぐそこまで迫ってきていますね。
                           (’16.11)


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