第17話  鍼灸治療で背後霊も退散?
                       〜肩こり〜
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「なんだか、ここにいつも何かがさばっている様な感じなんです。」
「何かって・・・背後霊とか、そういうの?」
「そうそう!なんかにとりつかれてるんだろうかと思うくらい。」
こわーい話をしようとしているのではないのですが・・・
後頸部から肩、背中を指して、こういう表現をする患者さんは
とてもたくさんおられます。

よく、人間は二足歩行するようになって「肩こり」に悩まされるようになったと
言いますが、重たい頭を乗っけて、左右二本の腕をぶらさげて日夜歩いたり、
仕事をしたりしているわけですから、納得がいきますね。
勿論、個人差がありますが、頭の重さは、体重60sの人でおよそ5sあるので、
日夜、5sの重りを支えている頸の筋肉には相当な負担がかかって当然ですね。
また、体の一部をぶらさげる形態をしている関節は、肩関節だけなので、
これまた、肩関節をサポートする筋肉には相当な負担がかかっています。
ある一定の年齢以上になると、よく腕組をする人を見かけますが、
偉くなったから「えっへん!!」とばかり腕組をしているのではなく、
その方が腕の重みが軽くなって楽だから、本能的にそうしているのです。
つまり、重い腕を持て余すほど、筋力が弱くなってきている証拠なのです。

歳とともに、筋肉は柔軟性やみずみずしさを失い堅くなってきます。
その上、重たい頭と重たい腕による筋疲労の為、益々堅くなります。
さらに、それにストレスが加わると、血管が収縮し血流が悪くなるので、
筋肉の栄養状態が悪化し、一層堅くなり温度が下がってきます。
サーモグラフィーで見ると青っぽい色になっています。
こういう状態になると、頸、肩、背中がずっしりと重くなり、
時にはゾクゾクとしたりして、「背後霊」に取りつかれたような感覚になるのです。
本当に取りつかれているのなら、まったく違う話になってしまいますが(笑)、
この状況を治すのは、最も鍼灸治療が適しています。

彼女は、離婚した後、女手ひとつで男の子を二人育てている
スーパーウーマンです。
彼らが小学生の時、離婚して以来、父親が居ないことで
後ろ指を指されないようにと懸命に育ててきました。
その甲斐あって、二人とも成績優秀で、母親の言うこともよく聞く
いい子だったそうです。
ところが、長男が高校受験に失敗して志望校に行けなかった頃から、
歯車が狂い始めました。
そうでなくても、思春期の男の子は、母親にとって御しがたい存在です。
口は利かないし、たまに言葉を発すると、「うるせーなー!」
夜も出歩いて帰ってこないし、携帯を持つようになると交友関係も把握できない。
当然、成績は下がり、先生からも注意を受け、
彼女はすっかりうちのめされてしまいました。

仕事は、デスクワークなので、重い頭を少し前に傾けた状態での作業が一日中。
それに加え、長男に関するストレスで、彼女の頸、肩、背中は
ずっしりと凝り固まり、「背後霊が取りついてしまった?」というわけです。
お話を聴きながら、まず、全身がリラックスするようお灸をし、
「背後霊?」に、「ここはあなたの居るべき場所ではありませんよ。」とばかり、
極細の柔らかい鍼で、頸、肩、背中の緊張を緩め、ポイントにはお灸もすると、
「すごく気持ちがいいです。そこをどうにかしてほしいといつも思っている所
全部へ、ピンポイントで先生の鍼が入ってくる。お灸も体中がほっこりして。
夏でもお灸って、気持ちいいんですね・・・」
彼女は、初めての治療とは思えないほどリラックスした様子で、
日頃の疲れも手伝って途中でうとうとと眠ていました。
帰りに、「背後霊はまだいますか?」と、尋ねると、
「うわぁ〜いません!いなくなってます!」

それから、しばらくは、治療をすれば「背後霊」がいなくなるが、
次回の来院時にはまた、ついてきている、という状態が続きました。
朝夕、すっかり秋らしくなり始めた頃、
「最近、背後霊がいなくなったみたい。あれだけ何年も居座っていたのに。」と、
彼女。
「だからか、不思議と私も少し気持ちにゆとりができたみたいで、
息子に、今までガミガミ言ってごめんねと誤ったんです。
そしたら、息子の態度もちょっと変わってきました。」

もしかしたら、「背後霊」とは、取り除いたほうがいい「もう一人の自分」
なのかも知れませんね。
また、取りつかれては大変なので、頸、肩、背中のストレッチを、
毎日続けるようにお勧めして帰っていただきました。

帰って行く彼女の背中は、秋の日差しを受けてとても軽やかに見えました
  (’14.9)


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