最近、「不登校」という言葉を耳にすることが多くなりました。
以前は、「登校拒否」と言われていましたが、「拒否」しているわけではなく、
本人が、「学校に行かなくてはいけない。」或いは、「行きたい。」と、
思っているのに、行くことができない状況に陥っている場合も少なくないので、
「不登校」という表現が、現在では一般的になっています。
不登校になってしまう原因には、色々あります。
いじめ、先生との相性が悪い、学校での勉強についていけない、
集団生活に馴染めない、或いは小学校低学年では、母親との愛着が強すぎて、
自立できない、など・・・多種多様です。
しかし、最近になって注目されている「不登校」の原因に、ODがあります。
OD(Orthostatic Dysregulation)=起立性調節障害とは、
一般的な診察や、血液検査などで異常が無いのに、
1.朝起きられず夜寝付けない 2.立ちくらみや起立時の失神発作
3.全身倦怠感 4.頭痛 5.食欲不振 6.乗り物に酔いやすい
7.集中力低下やイライラ感 などの症状の為、
日常生活に支障をきたすもので、原因はよく解っていないようです。
思春期の女子に比較的多く見られ、
軽いODは、思春期の発達段階に特有の生理的反応で、
大人になると治ることも多く、病的なものではないという考えが主流です。
中学2年生の彼は、お母さんが当クリニックの患者さんということもあり、
車に乗せられて、抵抗なく来院してきました。
小学生の頃には、剣道をし、勉強もそこそこ頑張る元気な少年だったのに、
中学に上がった頃から、朝起きるのに苦労するようになり、体がだるいとか、
頭が痛いなどと言って、学校を休むようになり、わけもなくイライラしては、
母親に当たるようになってきた。
最初は、お母さんも、反抗期なんだろうし、そのうち体調も良くなるだろうと、
思っていたのですが、次第にひどくなり、しんどいと言って学校を休むくせに、
お昼頃から元気になってきて自転車で出かけたり、夜遅くまでゲームをしたり。
「あんた、ええ加減にせられーよ!夜遅くまでゲームすりゃあ、そりゃ起きれん
に決まっとるじゃろう!」と、ついに堪忍袋の緒が切れてしまいました。
「もうその時は、我が子がこんな怠け者になってしもうて情けのうて・・・。」
午後から元気になってくるというのが、ODの特徴なのですが、
なかなか、周りには理解してもらえないのが、辛いところです。
ところが、お母さんに怒鳴られて、彼も意地があったのか、
朝は起きられなくても、午後から、なんとか学校へ行くようになったのですが、
「後で考えたら、顔色も悪かったし、食べざかりにしては食も細かったのに、
その時は、さほど気にせんかったんですよね・・・怠け者と決めつけとったから。」
そんなある日、担任の先生からの電話で、授業で発表している最中に、
突然倒れたとのこと。
駆け付けた病院でお医者さんから聞かされたのが、「ODの可能性大」でした。
その後さらに詳しく検査をした結果、間違いなくODだが、お薬は出ず、
生活上の注意点や家族の理解を求められ、しばらく様子を見ることに。
そこで、お母さんは、自分の経験から鍼灸治療をすると効果があるのではと、
直観し、彼も、抵抗なく来院してくることになったのです。
ODの症状は、典型的な自律神経の乱れですので、
1週間に一度の、それを整える鍼灸治療を始めました。
2月の寒い時期ということもありましたが、足先に強い冷えがあり、
一般的なこの年頃の男子では考えられないほど、「お灸が気持ちいい。」と、
治療の間中、うっとりとしているようでした。
3月に入った頃、本人からも、お母さんからも、
「朝、少し起きやすくなって、今週は、1週間のうち3日、朝から行けたんですよ。
お医者さんも驚かれてました。」と、嬉しそうに報告がありました。
今年の春は、寒暖の差が激しく、ひどく寒い朝は、起き辛いこともあったよう
ですが、なんとか朝から学校に行ける日が、週に3〜4日、午後からの登校も
入れたら、ほぼ毎日行けるようになってきました。
まだ、時々、立ちくらみはあるので、立ち上がる時に気をつけたり、
つい夜中にゲームをしていたのを、極力しないようにしたり、
彼も努力を惜しみませんでした。
「春休みの間にリズムが狂うんじゃないかと思って心配じゃったけど、
始業式もちゃんと朝から行けたんですよ。」
幸い、症状が軽い方だったので、比較的早く効果が出たのですが、
まだ完璧ではないし、今年は3年生で受験もひかえているので、
治療の頻度を減らしながら、今後もしばらく継続していくことになりました。
彼がトイレに立った時、すかさず、お母さんに耳打ちしました。
「怠け者どころか、すごい頑張ってる彼を褒めてあげて!
反抗期で仏頂面しとっても、褒められたら内心は嬉しいんよ。
ただし、褒め殺しにしたらいけんよ。」
トイレから出てきた彼は、母親が自分に視線を向けながら、
ニタついているのを見て「はぁ?」と仏頂面。
今年の岡山は、桜が満開になりかけた頃、花冷えになったせいか、
少々の風雨でも散らずに長持ちしています。
来年の今頃には、彼にも「桜咲く」春が訪れていることでしょう。
(’14.4) |
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