第41話  瓜食めば 本文へジャンプ
「瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ
何処より来たりしものそ 眼交(まなかい)に 
もとな懸かりて安眠(やすい)しなさぬ」
これは、万葉集に収録されている有名な山上憶良の歌ですね。
「銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も 何せむに 勝れる宝
子にしかめやも」も同様に有名です。
どちらも、子を思う親の心情が切々と伝わってきます。
古今東西、この心情は不変であり普遍であると誰しもが思っているはず・・・
ですが、昨今、それが通用しない事件が多すぎます。
自分はご飯を食べるのに、子どもに食べさせない、
水や熱湯をぶっかけたり長時間立たせたり、
頭部に損傷を負わせる程殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたり・・・
そして命を落とすまでその行為を執拗にやり続ける。
一体、どういうことなのでしょうか??

こういうニュースに触れる度に、胸が苦しくなります。

動物のオスには、メスが連れている別のオスの子どもを殺して、
自分の支配下に置く習性があるようで、女性の連れ子を現在の夫、
または愛人が虐待するという構図はある意味動物の本能なのかも
しれませんが、動物のメスは自分の子どもを襲おうとするオスから
命がけで吾が子を守ります。
しかし、人間の女性は、感情を有する動物であるがゆえに、
現在の夫、または愛人からマインドコントロールされてしまうと、
如何ともしがたい状態に陥れられてしまうのでしょうか・・・

中には、こういった「なさぬ仲」の夫や愛人がからんでいるわけでないのに、
実の子どもを手にかけるケースもあります。
この多くは、ノイローゼとまではいかなくても育児に行き詰った状態で、
衝動的にやってしまうと考えられます。
子どもと真剣に向き合えば向き合うほど煮詰まり、がんじがらめになり、
手をかけるまでいかなくても、「ああああ、もうイヤだ!!」と思う瞬間は、
育児経験のある人の多くが味わっていると思います。
私も例外ではありません。

でも、「もうイヤだ!!」という否定的な感情以上に、吾が子を愛おしいと、
思う感情の方が遥かに勝るからこそ、なんとか育児を続けていけますし、
「この世界に一人の人を産み落とし、人の子の親になった瞬間から、
この人が一人でも生きていけるようになるまで育てる任務を、
神様から選ばれて与えられているんだと、育てさせてもらっているんだと、
思いなさい。」と、渡辺和子さんの書物で読んで感銘を受けて以来、
それを「座右の銘」として、育児に行き詰ったり悩んだりした時、常に、
自分に言い聞かせていました。
勿論、よく言われるように、育児をする母親が孤立してしまわないように、
おじいちゃん、おばあちゃんや周りの人々の支えも欠かすことは
できません。

北京オリンピクが終わり、まもなくパラリンピックが始まります。
メダルを獲得した選手は皆、異口同音に「支えてくださった多くの方に、
感謝したい」と言いますね。
彼らをサポートするチームの多くのスタッフへの感謝は勿論ですが、
彼らが幼い頃から長年に渡り有形無形のサポートをし続けている、
親御さんや家族への感謝の思いは、普段口にしないだけに、
計り知れないものがあると思います。
当クリニックの患者さんにも、オリンピアンのお母さんがおられますが、
幼い頃から、日々の練習の送り迎えは勿論のこと、
関西や関東までレッスンに同行したり、巨額の資金調達のため、
夜遅くまでお仕事をしたり、本当に頭の下がる姿を見てきました。
また、生まれた時、脳に重度の障害を負った子どもさんを日夜、
介護されている患者さんもおられます。
日中、ヘルパーさんに介護を代わってもらう時間を利用して、
疲れ果てた身体を癒しに来院される彼女は、
「手を握ったらじわっと握り返してくる、可愛いんですよ・・・」と、
眼を細めて話されます。

縁があって、自分のもとに来てくれた吾が子を、試行錯誤しながらも、
育てていけるように、何かのまたは、誰かのサポートが常に、
どのお母さんにも、あるといいですね・・・

そして、ウクライナの多くの子どもたちに、どうかどうか幸あれ!!
と、願ってやみません。

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