今から7年前、オリンピックの東京招致が決まった時、
当クリニックに来院中の当時81歳の患者さんが、
「私は、オリンピックまで生きられるじゃろうか?」と心細げに言われました。
「東京オリンピックを絶対この目で見てやる!という目標を持って、
頑張れば大丈夫よ。」と、私はその時言いました。
彼女は、今も当クリニックに通って来られていて、今年88歳です。
東京オリンピックまで1000日を切ったとの報道があった時、
「遥か先の事の様に思ってたけど、ついに射程内に入ってきたよ。」と言うと、
「本当じゃなあ・・・この調子で行けそうな気がしてきた。」と。
彼女は、戦時中、女学生でしたが、英語の授業は勿論のこと、
学徒動員で働かされて、ろくに勉強もできず、
「一億玉砕するまで戦え。敵に辱めを受ける前に自害せよ。」と教えられた。
戦争に負けた時は、
「これからどんな時代になるんじゃろう?と、ものすごく不安じゃったけど、
まさかこんな好い時代が来て、自分がこんなに長生きするとは、
思うてもみんかった・・・」
好むと好まざるに関わらず、人は気が付いたらこの世に生きていて、
取りあえず、命尽きるまで生き続けなければいけません。
どんな時代が来ようと、どんな境遇に置かれようと、どんなに辛かろうと、
とにかく、命尽きるまで生き続けなければいけません。
時に、「なんでこんな思いをしてまで頑張らないといけないんだろう?」
「生きていることに何の意味があるんだろう?」
「いっそ、死んでしまいたい!居なくなりたい!」などと思ってしまうことが、
誰にでも長い一生のうちには、1度や2度ありますよね。
このところ、世間を騒がしている神奈川県座間市の事件。
容疑者の稀に見る異常性は無論のことですが、この事件をきっかけに、
自殺サイトへの若い人の書き込みが想像以上に多いことに、
皆、一様に驚かされました。
当クリニックに来院される患者さんの中にも、「死にたい」「居なくなりたい」
と、つぶやく方がおられます。
そこまで思いつめるほど、体調や心理状態が悪いわけですが、
病院での治療を受けながら、またご縁のある方は鍼灸治療を受けながら、
時間のかかる根気の要る作業を経て、例えば10あった苦痛が5に減っても、
異口同音に、「あの時、死ななくてよかった・・・」と言われます。
体調に限らず、人は、それぞれに課題を課せられて生きているのだと、
私は思っています。キリスト教では、「神は、その人に耐えられる試練しか、
与えない」と言いますが、懸命に課題をクリアしてやれやれと思ったら、
また次の課題が延々と与えられ続けるのが人生で、
全てをクリアしたら、人生を卒業してこの世を去るのかもしれません。
去った後、どこへ行くのかは、私にもさっぱり解りませんが(笑)
なので、途中で嫌になる時も、投げ出したくなる時も、逃げたい時も、
誰にだってあるはずです。
そんな時、人はつい、「死んだ方がましだ」と思ってしまうのですが、
前述の容疑者も言っているように、本当に心からそう思っている人は、
少ないのです。
そうであるならば、辛い気持を誰かに聞いてもらいながら、
自分に課せられた課題をなんとかクリアしようという目標を持てると、
いいですね。
与えられる課題には、往々にして、何かを失うことが付きものです。
仕事やお金、健康、若さ、家族や友人、恋人・・・
人に寄ってさまざまなものを奪い取られ、
夢も希望も無いと思ってしまいがちです。
しかし・・・・・・
「大切なものは、失ったものではなく、今あるもの。持っているもの。」
これは、パラリンピアンの、谷 真海(まみ)さんの言葉です。
ご記憶の方も多いと思いますが、彼女は2013年のIOC総会で、
障害を乗り越えて走り幅跳びのパラリンピアンとなった、
自らの体験を通してプレゼンを行い、
オリンピックの東京招致に貢献した一人です。
当時は「佐藤」さんでしたが、その後、ご結婚で「谷」さんとなられ、
男児を育てながら、東京パラリンピックのトライアスロン出場を目指して、
今年の世界選手権では初出場で見事優勝されました。
中学生時代に陸上をする位元気だった彼女は、早稲田大学在学中に、
右足に骨肉腫を患い、膝から下を切断するという不幸にみまわれましたが、
それを見事に乗り越えたのです。
たとえ、仕事やお金、健康、若さ、家族や友人を失っても、
他に今持っているものは沢山あるはずですし、何よりも命があること、
これほど大切なものはありません。
命がある限り、課題をなんとかクリアしようという目標を持って、
コツコツとやっていけば、何らかの形で道が開けてくるはずです。
「大切なものは、失ったものではなく、今あるもの。持っているもの。」
しみじみと、噛み締めたい言葉ですね・・・
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