第31話   ラン活 本文へジャンプ
「来週、日帰りで奈良まで行くので、その2週間後に予約入れときます。
ランドセルの工房に行くんです。」
当クリニックでは、コロナ禍以来、岡山県外の特に感染拡大地域に
外出された患者さんには帰岡後2週間治療の予訳延期をお願いしており、
ありがたいことに皆さんそれを厳守してくださっています。
彼女も、車で兵庫、大阪を経由して奈良まで行って帰るからと。
それにしても、入学式がもうすぐなのに、こんなギリギリに奈良まで??と、
一瞬思った私は、トレンドに乗り遅れていました。
お嬢さんは、来年小学1年生です。
来年1年生なのに今からもうランドセル?と驚きますが、
「ラン活」なるランドセル購入のための活動は1年前の今から始めないと、
間に合わないんだとか。
何か所かある工房の商品をネットで前もって検索して、
気に入った物が見つかればネット予約してできあがって送られてくるのが、
来年の年明け頃ということなので、確かに今から始めないと、
間に合いそうにありませんね。
しかも、彼女はネットで見ただけでは不安で、実物を奈良にある工房まで、
わざわざ見に行くのですから、すごい念の入れようです。
「娘は、紫色がいいとかピンクがいいとか色以外はあんまり解ってないんで、
どれでもいいみたいなんだけど、私がこだわってるんです。
軽いとか背負いやすいとかは勿論だけど、やっぱりデザインが大事。」
なるほど・・・
デパートや色々なお店にいっぱいランドセルが並んでいますが、
そういう所の商品では満足できない方々もおられるのですね。

以前は、男の子は黒、女の子は赤のランドセルが定番でしたが、
最近はクレヨンや色鉛筆のようにカラーバリエーションが豊富で、
ランドセル売り場は花が咲いたように綺麗ですね。
また、性の多様性が当たり前になってきた昨今では、男の子が赤でも、
女の子が黒でもいいわけで、実際、黒いランドセルを背負った女の子を、
少なからず見かけるようになってきました。
若い女性に全身黒っぽいものを着ている方が多かったり、
年配の男性が鮮やかな赤のセーターを着ていたり、春先には、
ピンクのシャツやネクタイを身に着けている男性もよく見かけたり、
服の色に関しては、随分前から多種多様になっていて、
今や全く違和感はありませんね。
むしろ、ランドセルは遅れてやってきたブームかもしれません。

最近は、制服も、男子でもスカートを、女子でもパンツを選べるなど、
性の多様性が尊重されるようになってきました。
女子の就活生の黒のパンツスーツが定番になってきたように、
パンツルックは今や普通ですが、男子のスカートは、
今のところはちょっとハードルが高そうです。
でも、少しずつ時間をかけて定着していき、そのうち当たり前になって
いくのかもしれません。

LGBTに、最近はQが加わって、男性とか女性とかにこだわらない、
より自由な概念のもとに生きようという発想が生まれているようですが、
発生生物学的には、受精後4〜5週の頃は男性女性のどちらにでも、
なりうる状態で、そこから次第に分化していくと言われています。
大人の男性にも女性ホルモンが、大人の女性にも男性ホルモンが、
分泌され続けることからも、根本的に全くの別物とは言えないわけです。
実際、両性の素養が備わっていると感じることは、日々の生活の、
ふとした場面で、誰にでもあると思います。

私は戦中派の親に育てられ、「男だから」「女だから」という概念が、
社会全体にまだしっかり色濃く存在している時代に大人になり、
最近では多様性を受け入れつつある時代をも経験し、
今後どうなっていくのか・・・
大きなランドセルを背負って登校していく子供たちを見ながら、
この子たちが、色々な場面で柔軟に生きていける社会であるといいなあと、
心から思うのです。

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