第49話   韓国めっちゃ好き!!   

               〜   リべド血管症(炎)  〜  
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彼女が初めて来院したのは、去年のクリスマスイヴのことでした。
当時、小学6年生だったのですが、伏し目がちで、
どこかアンニュイな雰囲気を、漂わせていました。
それは、無理もありません。
彼女は、リベド血管症という病気を患っていて、その上、
一日に5、6回起こる立ちくらみ、食欲不振に悩まされていました。
その前の年には、喘息のような症状が出たり手が霜やけたりしたとのことで、
どれほど、自分の体調をうっとおしいと感じていたことでしょう。

リベド血管症という病気は、あまり知られていませんが、
20代〜40代の比較的若い女性に多い、原因不明の疾患です。
皮膚表面のすぐ下にある真皮と、その下にある皮下組織との境界部で、
なんらかの原因により、静脈網と動脈網の緊張のバランスが崩れる事で、
血液の凝固異常が起こり、真皮血管に血栓ができ、その結果、
皮膚表面に、網の目状や樹枝状、大理石状の模様(これをリベドと言う)が、
できるという病気です。 
以前は、「リベド血管炎」と言われていましたが、
血管に炎症は認められないので、
最近は、「リベド血管症」と言われることが多いようです。

悪化すると、痛みを伴い、潰瘍ができたりむくんだりしてきますが、
彼女は、まだ軽い方で、両膝から下、特に足首の周辺から甲にかけて、
黒ずんだ網の目状の模様が、拡がっていました。
彼女の発症は3年前ということですから、小学3年の頃です。
最初は、皮膚科で通常の湿疹のような扱いだったのですが、
次第に悪化していったので、大きな病院に紹介され、病気が判明しました。
血液の凝固を防ぐ薬が出され、飲んだがあまり変わらないというので、
ご縁があって、当クリニックに来院してきたのです。

まず、このくらいの年頃の子どもさんは、本来、体温が高いものですが、
彼女は低体温で35度代であることが多く、手足の末端が非常に冷えており、
手が霜やけたのもうなずけます。
昔、火鉢に手をかざすくらいしか暖を取る方法が無かった頃に比べ、
現在は、住宅事情も良く暖房器具も普及して、
霜やけることが無くなってきているはずですが、
この様に、末端の血行が悪いと、今でも霜やけてしまうのです。 
そして、東洋医学で言うところの「腎」が弱っていました。
「腎」は、西洋医学の「腎臓」のみならず、身体全体のエネルギーの源です。
まだ小学生なので、大人よりも軽く、温灸器によるお灸を中心に、
徹底的に末端の血行改善と、「腎」の強化、そして自律神経のバランスを、
整える鍼灸治療を行いました。 

2回目の来院時、「こないだの治療の晩、めっちゃ足がムズムズして、
眠れんかったけど、その日だけじゃったし、立ちくらみがちょっと減った。」
ちょっと慣れてきたのか、尋ねなくても自分の身体の状態を、
ちゃんと説明してくれました。
頑張って毎週来院していたのですが、3回目の治療後、
1月半ばから2月上旬にかけて来院できませんでした。  
その間、マイコプラズマにかかり、それがもとで中耳炎になり、
その上、インフルエンザにまでなってしまったのです。
1回目の治療の晩、足がムズムズしたのも、このマイコプラズマを始めとする、
一連の不調も、全身の状態が良くない患者さんが、
初めて鍼灸治療を受けた時、少なからず起こる、
「瞑眩(めんげん)」と言われる好転反応の一つです。
この状態で、「鍼灸治療を受けて却って体調が悪くなった。」と、
治療を止めてしまうのは、非常に勿体ないことです。
全身状態が良くない患者さん程、こういう現象が起こり、起こる人程、
その後の治療効果が期待できるのです。

中断の後は、また、立ちくらみの頻度が増え、食欲不振も訴えていましたが、
2月の終わり頃、お母さんから来院して開口一番、
「先生、足の黒ずみが薄くなってきてます。」と、報告がありました。
3月に入ってからは、「最近食欲が出てきて、血色も良くなって。
それに今年の冬は喘息も霜やけも出ませんでした。」と、
お母さんも嬉しそうです。
「最近、めっちゃお腹がすくようになった。立ちくらみも、前は、
グワ―ンって感じじゃったけど、ちょっと、軽い感じがする。」
彼女は、色々、語ってくれるようになりました。
K-POPが大好きで、応援しているアーティストがいるので、
現在、韓国語を一生懸命勉強していて、いつか絶対韓国に行きたいとか、
4月からは中学生になって、不調な時には思いもしなかった、
陸上部の部活を始めたなど・・・
初診の頃のアンニュイな雰囲気は無くなってきました。
体調が良くなってくると、当然の事ながら人が放つ「気」は変わってきます。
東洋医学で言う「気」は、謂わば、オーラの様なものです。
健全なプラスの「気」を放っていると、その波長に合う「気」が、
集まって来るようになります。そして、さらに体調が良くなってくるのです。

人が体調を崩している時、悪循環に陥る場合があります。
その悪循環のスパイラルを、なんらかの働きかけで、良循環へと、
転換しなければいけません。
その働きかけの一役を、鍼灸治療は担うことができると思っています。

5月に入って、立ちくらみは全くしなくなりました。
足の黒ずみはさらに目立たなくなり、時々、新しい赤い模様がかすかに、
現れますが、黒ずむ前にすぐに消えていくようになってきました。
これが完全に現れなくなるのにはもうしばらくかかるでしょうが、
現在は、治療の頻度を減らしても問題ない状態です。

「日本と韓国って、慰安婦問題とか竹島問題とか色々あるけど、
気にはならん?」
「全然、気にならん。韓国めっちゃ好き!!」
そうか・・・そうですね・・・お互いにわだかまりを超えて、
お付き合いできるようになるといいんだけどね・・・
                            (’17.5)
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