第1話・第2話とは、また違う妊婦さんのお話です。
彼女は、結婚直前に卵巣嚢腫になり、片方の卵巣を摘出しなくてはなりませんでした。
でも、心配は無用です。
周知のとおり、卵巣は左右にありますが、それぞれが月々交互に排卵する為、
一つしかなくても、問題はありません。
実際、彼女は、結婚してまもなく、めでたく妊娠しました。
もともと、肩こりで鍼灸治療をしていたので、そのまま、妊婦さんの治療に移行し、
順調に経過していきました。
ただ、初めてのお産なので当然なのですが、我が子を迎える喜びよりも、
お産に対する恐怖や不安の方が強く、来院の度に、「怖い、怖い」と言います。
「案ずるより産むが易し」と言いますが、確かに、出産はそんなに容易いものでは
ありませんよね・・・
でも、もし、いとも簡単に、ポン!と産めるならばどうでしょう?
あのように泣けるほどの感動があるでしょうか・・・
多くの金メダリストが涙するのは、そこに至るまでの道のりが決して平坦ではなく、
苦しかったからこそで、出産に限らず人生でのあらゆるチャレンジに於いて、
苦労するからこそ、達成した時の喜びが大きいのは言うまでもありませんね・・・
彼女に、「お産が怖い」という恐怖よりも、「授かった我が子に会える」喜びの方へ
意識を向けるようにアドバイスし、苦しい陣痛の後に聞く我が子の産声と、
生まれたての我が子を胸に抱いた時の、何物にも代えがたい感動を、
是非、わくわくして待っててほしいと何度も伝えながら、マタニティーの鍼灸治療を
続けました。
逆子だと言われたのは、順調に月日が経過して第35週に入った頃でした。
「至陰」というツボにお灸をするという有名な逆子治療がありますが、
大体、33週頃までは赤ちゃんが自己回転することも少なくないほどなので、
あっけないほど1回で治せることが多いのですが、35〜36週になると、
ちょっと1回では上手くいかない場合があり、簡単には回りにくくなってきます。
36週、いわゆる10か月に入ると、もう難しくなってくるので、
少しでも早い方がいいということです。
1回目は、とりあえず、オーソドックスな治療を軽くしましたが、
翌週の検診でやはり回っていない事が判明。
その日、お医者さんが、赤ちゃんの心音をチェックしながら、
慎重に外から回すことに挑戦されたらしいのですが、小1時間頑張ったけど、
赤ちゃんはびくともせず、
「帝王切開しましょう。家族と相談して決めて下さい。」と、
日にちまで提示され、彼女はすっかり疲れて、同日予約を取っていた
鍼灸治療はキャンセルでした。
3日後の来院時に、おなかを触診すると、やはり、堅い頭がみぞおちのすぐ下に
あり、「今日は、もとの位置に戻ってよね。いい子、いい子。」と念じながら、
「至陰」のお灸だけではなく、さらにグレードアップした逆子治療を行いました。
その4日後、1週間に一度の検診の日、帝王切開にするかどうかの運命の日、
お医者さんが、驚いて、正常な位置に戻っていることを告げられて、
看護師さんからも、「ええ子じゃなあ。」と褒められたとのこと。
「でも、帝王切開の方が、お産の痛みは感じずに済むから、
治らん方がよかったかな?」と尋ねると、
「ちょっとはそう思いましたけど、でもやっぱり普通に産みたいから、
治ってよかった。」と彼女。
出産はもう間近です。
(’14.1)
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