第32話  「閉めないでくださいね」 本文へジャンプ
「閉めないでくださいね。」
「先生絶対に辞めないでね。」
最近、患者さんから聞くことが多くなったありがたいお言葉です。

感染爆発が起きて、人口10万人当たりの直近1週間の感染者数が、
全国第3位という不名誉な順位を喫してしまった岡山県に、
ついに緊急事態宣言が発出されました。
岡山県は、生体肺移植で有名になった岡山大学医学部付属病院を始め、
地方都市の中でも医療は充実している方だという誇りを持っていましたが、
やはりコロナ禍での医療体制は脆弱と言わざるを得ないようです。

患者さんの安心安全が第一ですので、去年のコロナ禍の始まりから、
常に患者さんには、「いつでもご自分の判断で、気にせずに、
予約キャンセルしてくださいね。ドタキャンでも全然構わないから。」と、
お伝えしていますが、このところ実際にキャンセルが増えてきました。
定期的にかかってきていた予約電話が全くこなくなった患者さんも、
少なくありません。

でも、人の価値観や置かれている状況は本当に色々なので、
岡山県知事が蔓延防止等重点措置を国に申請したという報道の直後にも、
初診で予約を入れてくださった方々もおられます。
無論、そういう患者さんは現在の本当に辛い症状をなんとかしたいという、
切羽詰まった状態だからで、「不要不急」ではないということです。

また、人から紹介してもらったのが偶々このタイミングだったという人も。
中には、この状況下にもかかわらず、ぎっくり腰になったからと、
3年ぶりに来院してくださった、リタイアされた医師の方もおられます。
そして、初診時の切羽詰まった症状が改善した後も、健康維持の為に、
長年ずっと欠かさず楽しみにして来てくださっている患者さんたちは、
「感染者が増えてきて怖いね。」と言いながらも、今までと変わらず、
定期的に来院してこられます。
鍼灸師と患者というより、長い年月を共に歳を重ねてきた同志の様な、
愛すべき「常連さん」たちです。

こういう方たちが、「緊急事態宣言でも閉めないでくださいよ。」
「先生、元気で辞めないでずっと面倒みてよ。」と言ってくださるのですが、
感染経路不明者増加の中で、私も患者さんも絶対にウィルスを
持ち込まないという、かなりハードルの高い状態を日々維持して初めて、
閉めずに続けることができるのです。
結構、紆余曲折に富んだ人生を歩んできましたので、
トンネルの先の光が見えるまで諦めずに暗闇の中をじっくり歩き続ける、
そういう経験は何度もしているのですが、このコロナ禍は流石に強敵で、
こんな、ある意味、ロシアンルーレットの様な崖っぷち感満載で、
しかも終わりが見えないという状況を克服できるという自信は、
全くありません(>_<)

でも、必要としてくださる患者さんがおられることに感謝しつつ、
「そういう患者さんが一人でもおられる限り閉めずに頑張りますよ。」と、
誓いながら、いつまで続くか判らないこの苦しい現状に、
まだまだ根気強く、とにかく粛々と向き合って行くしかないと思っています。


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