第25話  餅は餅屋 
         
〜 歯肉炎 〜
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どこが痛くても困りますが、歯が痛いのは本当に辛いですよね。
歯の病気の中でも、一般的に最もかかりやすいのは、歯肉炎です。
皆さんの中にも、一度は経験されている方が多いのではないでしょうか?
歯肉炎は、文字通り、歯ぐき(歯肉)に炎症が起きている状態で、
進行すると歯周病になってしまい、それを放置していると、
炎症が歯肉にとどまらず、歯周組織にまで及んでしまいます。

歯肉炎の原因は、なんといっても、歯磨き不足。
歯垢(プラーク)に歯周病菌が増殖して炎症を起こします。
健康な人でも、口の中には300〜500種類の細菌が住み着いていると、
言われていて、普段はその細菌達はおとなしくしているのですが、
歯磨き不足が続いていたり、甘い物を食べ過ぎたりすると、
悪さをするようになります。
それともう一つ、重要なことは、膀胱炎などと一緒で、
疲れたり、ストレスが溜まったりして、体の抵抗力が低下すると、
発症しやすくなります。
私の経験では、頸や肩の凝りが強い人は、そうでない人よりも、
圧倒的にかかりやすい傾向があります。

彼女は、共稼ぎの娘夫婦に代わって、孫の世話をしています。
朝、出勤前に娘が保育園に連れて行った孫を、
夕方には彼女が迎えに行き、自分の家に連れて帰ります。
そこからが大変。おやつを食べさせ、夕飯を食べさせ、
夜、帰ってきた娘夫婦にも夕飯を食べさせ、
車で10分ほどの所に住んでいる娘夫婦と孫を見送るまでが、
彼女に課せられた1日のノルマです。

「一日が終わったら、もうへとへとです。」
孫が赤ちゃんの頃から、娘の仕事が休みの日を除いて、
このノルマはずっと続いています。
熱を出したりしたら、保育園は預かってくれないので、
朝から晩まで一日中です。
夫に先立たれて独り暮らしなので、寂しくなくていいのですが、
「自分の時間は、先生の所でリラックスしている時だけ。」
道路を渡るだけでたどり着ける当クリニックでの受療中だけが、
唯一、彼女がほっと一息つけるひと時でした。

そんなある日、彼女は「歯が痛くて食べ物が噛めない。」と、
腫れた頬をさすりながら来院しました。
普段は肩こりと腰痛の治療が主なのですが、
「いつもの治療のついでに歯の痛みを和らげる治療もしときましょう。
どっちにしてもこれだけ腫れてたら、炎症が落ち着くまでは、
歯医者さんも触れないからね。」
当クリニックでは、この様なついでのサービス治療をよく行います。

孫が、熱を出していた数日の間、朝から晩まで世話をしたのが、
こたえたとのことで、いつもに増して格別に頸、肩が凝っていました。
まずこの凝りを充分ほぐして、
その後、歯ぐきの炎症を散らす治療をしました。
帰りには、「わぁ〜だいぶ楽になりました。」
「これで落ち着いたら、早めに歯医者さんに行ってよ。」

2週間ほど経って来院したとき、彼女はすっきりとした顔でした。
「先生、あれ以来全然痛まんようになったから、結局歯医者さんに
行ってないんですよ。」
「ダメよ〜飽くまでも応急処置だから、放っといたらまた痛くなるよ。
“餅は餅屋”。“歯は歯医者”。」
「はい。行きます、歯医者さん。
こないだ歯が痛い最中に、孫の歯磨きをしてやりながら、
ばあば歯が痛いんよ、こんなにならんように磨こうねと言ったから、
それ以来、私の顔を見たら、ばあば、歯が痛いん?
ショウ君はちゃんと歯磨きしてるから痛くないよって言うんですよ。」

たとえ自分の時間が無くても、少々しんどくても、
こういう、心がほっこりするような場面があるから、
お孫さんのお世話ができるんですよね〜
       
 (’15. 5)
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