第8話 鍼灸師になりたい
           〜小児気管支喘息〜           
本文へジャンプ
話は10年前に遡ります。
当時4歳の女の子が、母親に連れられて、訪れました。
2歳頃から喘息が出始め、特に昨年から悪化し、
毎朝起床時に発作が激しいとのこと。
病院に駆け込んでは、点滴を受ける日々で、食欲も無いため、
同年齢の子供さんに比べて、身体も小さく弱々しく見えました。
当クリニックの駐車場が、当時は、少し離れた場所にありましたので、
そこから、母親が乳母車に乗せて連れてこなければいけないくらいだったのです。
ほとんど毎朝の発作が、余程苦しいのでしょう。4歳の子供さんとは思えない位、
いわゆる「眼が座った」状態で、能面のように無表情な顔で、
ぼんやりと私を見つめていたのが、印象的でした。

「小児鍼」は、「キッズとベビーのタッチセラピー」のページでも紹介しているように大人の治療とは違い、金属のヘラや、棒のような物で、皮膚表面を刺激するだけで、充分効果があるものです。
喘息の患者さんは、子供さんでも、肩や背中に強い筋緊張があり、彼女も例外ではありませんでした。大人なら耐えられないくらい、「凝った」状態です。
また、膝から下の皮膚が、ザラザラに荒れて柔らかい子供の皮膚ではありませんでした。「皮膚科でもらっている薬を塗っても、こんな状態で。これも治りますか?」
母親の質問に、「喘息の治療をしたら、これも一緒に良くなりますよ。」
と言いながら、温灸器で胸と背中にお灸をし、喘息のための「小児鍼」を、
全身に施しました。
お灸をしている時、4歳の子供さんが、こんな表情をするのかと思うくらい、
陶酔したような面持ちでしたが、治療.が.終わると、血色が良くなり、
眼に活気が出てきました。
やっと子供らしいちょっと照れくさそうな、でも嬉しそうな笑みを浮かべて、
帰って行ったことを、昨日のことのように思い出します。

彼女は、H県F市から、母親の運転で、頑張って通ってきました。
2回目の来院の時、初診の日の夕飯に、サラダや味噌汁など、今まで食べなかった物が食べれたことと、ガサガサだったむこうずねがツヤツヤになったことを、
母親が嬉しそうに報告してくれました。

5か月ほど経った頃には、食欲が出てきて、顔もふっくらとしてきました。
その後は、風邪をひくと、少し発作が起きるが、点滴の回数も減り、
小児科のお医者さんも驚いているとのことでした。
この頃から、母親の体調が悪くなったこともあり、治療は、2〜3カ月に1回ほどのペースになり、やがて、調子が悪くなれば来院するペースになり、
やがて小学生になりました。
その後は、インフルエンザやおたふくにかかると発作が出て入院したり、
時々しんどくなって休んだりしながらも、学校まで4キロの道を歩いて通い、
2年生から3年生にかけては数回の来院のみで、
そのうちもう治療する必要がなくなりました。
この頃の彼女は体格もとても立派になって、別人のようになっていました。

それから数年の月日が流れました。今度は母親が来院するようになり、
ある日、「娘が、自分は鍼で治してもらったから、鍼の先生になりたいと
言っています。」と聞きました。
鍼灸師として、苦痛から解放された患者さんの笑顔以上に嬉しいものは、
ありませんが、一人の子供さんの進路に関われたのは、
鍼灸師冥利に尽きるというものです。
人が職業を選ぶきっかけはそれぞれですが、
自分や家族の病気をきっかけに医療従事者の仕事を選択する人は多く、
目標が明確なだけに、その後の勉学へのモチベーションもおのずと
高く保てるものです。

現在、彼女は中学生になり、鍼灸師を目指して勉学に励んでいますが、
先日10月14日にコンベンションホールで行われた県民公開講座「宇宙と鍼灸」を
聞きに来て、さらに思いを新たにしたようです。
「鍼灸の力で人を助けていきたい。」とメールをくれました。
立派な鍼灸師になって、お母さんの治療をしてあげてね!
頑張れ!!応援してるよ〜!!

                                        (’13.12)

 治療室の小窓トップへ