第48話  生き延びるのに必死 本文へジャンプ
庭の金木犀が香り始めました。
蕾はまだ小さく開いてはいないのですが、毎年、この状態から次第に、
むせかえるような甘い香りが充満する10月初旬まで楽しませてくれます。
冷たく激しい風雨に当たると一気に香りも失せ、花も散ってしまうので、
毎週のようにやってきた台風に、もうそろそろ終わりにしてほしいなと。
被害に見舞われた地域の方々を思うとなおさらです。
この数年、毎年必ずどこかで大きな自然災害が起こることが、
もう当たり前のようになってしまいました。

「とかくに人の世は住みにくい」とは、夏目漱石の「草枕」の有名な、
冒頭部分の一文ですが、自然災害に加え最近の光熱費や物価の高騰は、
我々一般庶民の何気ない日々の生活全般に、徐々に暗い影を落とし
始めています。
飲食店を営まれている患者さん方も、コロナ禍をやっとなんとか凌いで、
乗り越え始めた矢先にこの状況で、「どうしょうもない。我慢しかない。
生き延びるのに必死です」と話しながら、しばし骨休めをして、
治療後、「さあ、これで頑張れる!!」と言って、帰って行かれます。
本当に、この状況がいつまで続くか解りませんが、またまた、
出口の見えないトンネルをひたすら歩き続けるしかないようです・・・

「生き延びるのに必死」と言えば、今年の大河ドラマ。
毎週畳みかけるような怒涛の展開を見せ続け、緊張感を持ったまま、
翌週まで待たせる作品は、今まで無かったのではないかと思います。
私は、評判が良い悪いに関わらず、大河ドラマは毎年ほぼ観ていますが、
「鎌倉殿の13人」がツイッターのトレンド入りを何度もしていることからも、
今年の鎌倉の観光客が非常に多かったというニュースを見ても、
普段あまり大河を観ない人たちにも刺さっていることが解ります。
三谷幸喜さん脚本ということも無論大きいのでしょうが、
何といっても、小栗旬さんの迫真の演技と、彼の画策によって、
毎週のように無念の死へと追いやられる御家人たち一人一人の、
「小栗義時」に呼応する名演技が、観る者をその世界に引きずりこんで
いくのです。
なんの欲もない穏やかな性格の北条家の次男坊、義時が、
鎌倉殿を支える執権北条家を守る為に、「生き延びる」為に、
その妨げとなる者たちを次々に葬っていく、徐々に「ダークサイド」に落ち、
「鬼」と化していく様は圧巻です。
最終話までもうそれほど時間はありませんが、「ダークサイド」に落ちた、
義時の結末がどのように描かれるのか、ハラハラしながら見守りたいと、
思います。

勿論、時代が違うので、今の時代にこのような殺し合いはありませんが、
自分や家族の生活を守る為、時には身を賭して頑張らなければいけない、
さまざまな困難に遭っても、とにかく生き延びなければいけない、
その人間の営みに今も昔も変わりありません。

それにしても、私たちは一体、何個トンネルを抜けなければいけないのか、
トンネルを出たところで日の光を浴びながら皆で喜び合う日が、
早く来てほしいですね・・・

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