第3話 タイパ
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最近は、倍速視聴したり、ネタばれなどで結末を知ったうえで、
映画等を観たりする傾向があると、よく耳にします。
確かに、時短で洗濯や料理をしたり、仕事も無駄を省いて手際よく、
面倒な過程をできるだけ排除していく生活が当たり前になり、
DX化での業務効率が加速していく時代になりました。
また、結末を知ったうえで映画などを観る人たちは、
途中、複雑に絡み合う伏線から色々推察したりドキドキするのが、
めんどくさいから、全部解ったうえで安心して観たい、と言います。
でも、これはとても勿体ない気がします。

先日来のWBCの盛り上がりは、今更述べる必要もありませんが、
今でも思い出すと胸が熱くなるような数多くの名場面がありました。
私たちは一喜一憂したり、手に汗握ったり、思わず歓声を上げて、
飛び上がったり周りの人達とハイタッチしたり・・・
涙がこみ上げるような心を強く揺さぶられるひと時を、
多くの国民が体感しました。
それは、試合の推移をずっと追い続け、一体どうなっていくのか、
誰にも解らない状況に身を置く、ある種の苦しさ、もどかしさの果てに、
そこから突然解放されるような結末が展開されるからであって、
その過程こそが、最高の醍醐味であると言えます。
録画しておいて結果を知ったうえで倍速で観たら、この醍醐味は、
半減するでしょう。

患者さんの中には、ハラハラドキドキして観るのは心臓に悪いから、
録画しといて、結果を知ったうえでゆっくり観るという人もおられ、
結果が解っててもハラハラするし感動するよ、と言われるので、
人それぞれではあります。
確かに野球の試合は、その所要時間の長さ故、オリンピック競技から
外されたり、MLBでは、今季からペースアップのためにピッチクロックが、
導入されたりして時間短縮の試みがなされています。
今回のWBCでも、1次ラウンドの韓国戦を始め、4時間たっぷりかかり、
終了時刻は11時を遥かに過ぎた為、患者さんの多くが、
「大差がついたら安心して途中でもう寝た」と、言われていましたが、
MLBのように新ルールを設けるなどの工夫も必要なのでしょうが、
あの、気をもむような過程を楽しむ余地は残されると思います。

今年は、全国的に桜の開花が早まり、4年ぶりの普通のお花見を、
楽しむ事ができそうですが、いにしえより、「しづ心なく花の散るらん」と、
ぱっと咲いて散り急ぐ桜の華やかさとそのはかなさを惜しむ心情が、
日本人にはあります。
タイパばかり追及して、イライラセカセカと日々を送る私たちも、
時には、ゆっくりと時間をかけて物事が変化していく過程を、
しみじみと味わう余裕を持ちたいものです。


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