幼児期のおねしょは、よくあることですが、
もうすぐ小学校に入学という頃におねしょがやまないと、
親も子もちょっと不安になってきますね。
オムツの中に排尿排便している赤ちゃんが成長して、
幼児期にはちゃんとトイレで排泄できるようになっても、
時々寝ている間に失敗するのは、まだ排尿のメカニズムが未熟な為で、
これはあまり心配して焦ったり叱ったりせず、気長に様子を見るべきものです。
しかし、この幼児期の「おねしょ」と違って、学童期前後以降になってくると、
一種の病気とみなして、「夜尿症」と診断されるようになってきます。
小学生の低学年でおよそ10%、高学年で5%位の子供に見られ、
夜間に尿の濃度を増すことで尿量を減らす抗利尿ホルモンの分泌量が、
少ない、或いは、夜間の膀胱容量を増やす自律神経の働きが弱い、
などの原因があるとされ、遺伝的要因もあると言われています。
勿論、元になる病気が潜んでいることもありますので、
早めの専門医への受診は不可欠です。
しかし、検査の結果、特別な異常は無く、
就寝前に大量に水分を摂らないことや、規則的な生活をすること、
失敗したことを責めないことなどの注意事項が示され、
「様子を見ましょう。」と言われて、色々と努力はしてみるものの成果が無く、
人知れずお悩みの親子は、決して少なくはありません。
学童期の子供さんは、自分のあるまじき状態に深く傷つき、
このデリケートな話題が親の口から出る度に、
耳をふさいで逃げ出したい気持ちになっています。
器質的な異常が見られないおねしょや夜尿症に、
「小児鍼」がよく効くことはあまり知られていませんが、
当クリニックに来院されている患者さんから、
「うちの孫のことなんですけど、鍼が効くんじゃないかと・・・」
と、相談がありました。
早速、おとなしそうな女の子がおばあちゃんとやってきました。
「娘は、下の子がおるんで私が連れてきました。」
「おしっこは、ほぼ毎晩です。病院で診てもらったら、特に異常は無いと。
膀胱の大きさとおしっこの量のバランスが悪いんでしょうって。
寝る前に水分を摂り過ぎんようにと言われて気は付けよるんじゃけど。」
女の子は、4月から小学1年生。
1歳上にお姉ちゃんがいて、昨年秋に、待望の男の子が誕生。
なるほど〜これも夜尿症の大きな原因のひとつです。
幼い子供さんにとって、兄弟の誕生はライバルの登場です。
特に、大好きなお母さんを奪われるのは、
人生で最初に味わう大きな大きな喪失感に他なりません。
ストレスによって膀胱の緊張が高まり、意識から解放された夜、
おしっこが出てしまうという、ある意味、心身症的な夜尿症です。
こういう子供さんの多くは、冷えていることが多いので、
温灸器を最も低温に設定して、下腹部を温めます。
「気持ちいいじゃろう?」と聞くと、
「うん。あったかくて気持ちいい。」とにっこり。
勿論、小児鍼ですので、全く痛みはなく、くすぐったいような治療です。
(詳しいことは「小児鍼」のページをご覧ください)
くすぐったいとケラケラ笑ったり、お気に入りのアニメや犬の話などで、
盛り上がりながら治療が終わった時は、血色が良くなり、
表情もにこやかになっていました。
当クリニックには、今まで色々な患者さんが持って来て下さった、
お人形などの作品が沢山あるので、彼女がそれに夢中になっている隙に、
「まず、身体が冷えやすい体質なので、冷房が入る時期は気を付けて。
夏でもシャワーで済まさずお風呂に浸かってね。
それから、次の事をお母さんにお伝えください。
お母さんを奪われたという嫉妬がベースになってるので、
赤ちゃんが寝ている時などにすかさず、しっかり関わって抱きしめて、
生れて来てくれてありがとう!大好きだよ!って言ってあげてください。
勿論、失敗しても絶対叱らないこと。上手く行ったときはすごく褒めて。」
「ああ、確かに、下の子が生まれてからがひどうなった様な気がします。
病院では、検査してどうもありませんよと言われたきりじゃったけど、
そういうことがあるんですね。娘もついイライラして大声で叱るしね。
解りました。そう伝えます。」
小児鍼の治療は、当クリニックでは4回で1クールとし、
軽い症状なら、大体1クールで終了することが多いのですが、
彼女も例外ではありませんでした。
1週間後、「先生、おかげさまで、一気に良うなったみたいで。
毎晩のおしっこが、治療してもらった晩からずっと止まって、
昨晩久しぶりに出たみたいです。」
「そうなん!よかったねえ、みおちゃん!もう、大丈夫だよ!」と、
ハイタッチすると、嬉しそうに声をあげて返してきました。
「なんか、朝なかなか起きれず、それも娘のイライラの基じゃったけど、
すっと起きるようになったみたいだし。
娘も先生に言われた事を伝えたら、確かにそうじゃなあ、言うて、
なるたけスキンシップをしょうるようです。」
「それは良かった。治療によって自律神経の働きが良くなるからね。
膀胱がちゃんと夜モードの膀胱容量に切り替えたり、
朝の寝ざめがよくなったりするのも、全部、自律神経の働きだからね。
それに、何と言っても、お母さんのスキンシップ。
これに勝るものはありません。」
2回目の来院時、「今朝、失敗した瞬間に自分で眼が覚めて、
慌ててトイレに行ったみたいですけど、それまで全然でした。」
「そうかぁ〜もうそりゃあ、みおちゃんにバイバイ言いに来たんじゃわ。
もう来ないからねって。もしまだたまに来ても無視無視。
そしたらそのうち完全に来んようになるから。」
彼女は、「ムシムシ」と、楽しそうに笑いました。
バイバイを言いに来たのは本当だったんでしょうか〜
その後、おしっこの失敗は1度もありませんでした。
おばあちゃんが自分の治療の為、訪れました。
「ほんま、ウソのようにあれから全然です。ありがとうございました。
家庭訪問がある言うて、お母さんと一緒に部屋を片付けようります。
なんか、おしっこの失敗せんようになって自信がついたんでしょうな。
最近は、活発になってきた気がします。」
ピッカピカの1年生〜頑張れ〜!!
(’17.4)
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